ふたつの愛し方
《美和》


俊也と付き合うようになって、既に半月ー…ー。

なかなか忙しい俊也とは、あの日以来ゆっくり過ごす時間はない……

この前の休みは、緊急呼び出しで出て行って、そのまま帰って来なくて……


『ごめん。今日は帰れない。スペアキーがシューズクロークの引き出しに入ってるから。そのまま持ってていいよ』


なんてLINEが届いて、寂しい気持ちを圧し殺して帰ったんだよね。

仕事だって割り切ってるし、医者がどれだけ大変かもわかってるけれど……

本来は薬剤師でしかない私は、急ぎの検査依頼か、もう一人の検査士の渡瀬さんが手一杯の時しか病院内には入らないから、俊也には病院では、なかなか逢えない。


今まで、私は寂しい時は伝えてたのかな?

うーん……伝える以前の問題だったかも。

こんなに寂しいって思えるくらい…ー…好きになったことはないから。

どういう風に伝えていいのかもわからないよ。


こういう時は、北河くんと朱希が羨ましい。

病院で逢えるし。

夜勤が重なって時間帯さえ合えば、少しの時間でも一緒に過ごせるもんね。


ああーー…もうっ!!

俊也に触れたいよ。

頭を撫でて、抱き締めて、キスをして欲しいよ。

抱かれたいよ。

低くくもなく高くもない男らしい声で、美和って呼ばれたいよ。


私がね。

寂しいって言えば時間なんて、幾らでも作ってくれるんだろうけど。

邪魔しちゃうじゃない。

副院長になって、経営面も任されて仕事量も増えたみたいだし。


せめて、ガラス越しにオペをしてる俊也に逢いたい。

意を決して、北河くんに聞いてみよう!

今日なら時間が取れる。

パートさんに薬局を任せて、白衣を脱いで薬局を飛び出していた。
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