ふたつの愛し方
隣から英介の声がして、始まりを知らせる。

いつもなら、この時間はすぐ傍で聴いてるはずの声が遠くに聴こえる。

寂しさを紛らわすために、美和とは順調?


終わるまで、私の訊きたい話に付き合ってよ、俊也。


「順調だよ。実は俺な……ずっと朱希を好きだったんだよ。気付いてなかっただろ?」


驚きで、うそ?と間抜けな声が出ていた。

気付いてなかった、ごめん。


「謝らなくていいんだよ。ずっと朱希は英介しか見てなかったんだから、気づかないのもわかってたし……好きだって言えなかった。それをわかってて、美和は俺を好きだって言ってくれた」


いつの間にか…ー色んな美和に触れて今は、かなり好きになってる、と。

私は見たことのない、愛おしそうな表情で教えてくれた。


「美和は、俺が大切にするから。心配するな。そのうち、4人で飯を食おうな」


「うん!美和をよろしく」


俊也が、私が癒される爽やかな笑顔で返してくれたタイミングで、血液採取が終わって、、、

針を抜かれて、ガーゼを貼ってくれると、ゆっくり起き上がれ、と身体を支えてくれる。


「そんなに密着したら、美和に嫉妬されるでしょ?」


そう言って笑うと、しないだろ、と。

ゆっくり立ち上がってみろ。

俊也に言われた通り、ゆっくりとカンファレンス室の長椅子を降りて、立ち上がる。

暫く立っていたけれど、立ちくらみもない。


「うん!大丈夫そうだな。行って来い!」


ありがとう、と俊也から血液を受け取り、手を振って隣の扉を開けた。


外回り看護師さんに血液を渡して、私がガウンとマスクを着けるとー…ー。


『北河先生!器械出し、中村さんに変える』


上から手術室へ連絡が入る。

受話器を英介の耳に当てると、視線だけを私に向けて、小さく頷いてから、わかった、と。

大丈夫って、瞳で訴えたのを気付いてくれたんだね。

受話器を外回り看護師さんに渡してから、上にも視線を向けて小さく頷くと、俊也も頷き返してくれる。


「佐々木、ありがとう。中村のサポートしてくれ」


英介の指示で、隣を譲ってくれた佐々木さんに、ありがとう。

横目で私を見た英介は、朱希、と。

英介を見上げて大きく頷いて、英介の手元に視線を移す。

この状態で次はーーーと器具を確認して手を添えて、器具が置いてある台を挟んで立っている、佐々木さんに声を掛ける。
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