ふたつの愛し方
「私が今、手を置いている器具の次はこれ。その次はこれ。順番がバラバラだから並べ替えておいて」


視線が絡むと一瞬だけ目を丸くして、わかりました、と並べ替えてくれる。

隣の英介が、さすがだな、と手を止めることなく呟いた。


それから、2時間のオペが終わって。

英介がいつものルーティーンをした後、手袋を私も外した直後ーー!!

クラっと立ち眩みがして、その身体を英介に支えられる。

朱希!?大丈夫か?

英介の声が耳元に届いて、大丈夫、と答えたけれど。

背中からガウンの紐を解かれて脱がされて、支えている反対の手で英介も紐を解いて腕を替えて脱ぐと、私の身体を抱え上げた。


あとは頼む!


降ろしてください!と、足をバタバタする私を他所に、英介は手術室に居る皆にそう言ってカンファレンス室の扉を開けた。


長椅子に降ろされて、マスクを外して、放り投げると、気が抜けたんだろ、と。


「よく頑張ったな。ありがとう。点滴して寝とけ。傍にいるから」


褒めてくれて、優しく頭を撫でながら私のマスクも外してくれるから、皆の前で抱えられた事なんてどうでもよくなってくる。


そこへ、、、俊也が点滴を持って来てくれて、点滴が繋がれる。


「全く……朱希に無茶させんなよ!」


英介が俊也にそう言うから、俊也を庇おうとすると、俊也が首を小さく横に振る。

何も言うな、任せとけって合図だと俊也に任せることにした。

英介だって本気で怒ってるわけじゃない。

表情は穏やかだもん。


「お前だって、朱希が隣に居た方が集中出来るだろ。それに朱希の性格は知ってるだろ?止められないよ」


「そう……だな。どうせ上から見守ってたんだろ?念のため、点滴も用意して」


「当たり前だろ。全て予測済みだよ」


2人のやり取りに微笑みながら、ありがとう。


朱希は俺にとっては、美和が居ても変わらずに大切な幼なじみだからな。
あんまり心配させんなよ。


なんて俊也に言われ、、、


俺の隣にはどんな時も立つのは、朱希だけなんだ。
立てなくなられたら困るんだよ。
無理はするな。


なんて英介に言われ、、、それぞれの違う愛情を感じていた。


「点滴終わったら、帰ろうな」


英介の手を握って、小さく頷くと握り返してくれた。
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