ふたつの愛し方
翌日ーーー。


「もう今日は大丈夫ですか?」


佐々木さんが申し送りの後に声を掛けてくれた。

大丈夫よ、ありがとう。

そう答えると、よかったです、と。


「私……昨日は主任の指示に北河先生が、必ず主任を器械出しにする理由をやっと理解しました。主任は執刀医が何も言わなくても、手を出しただけで次の器具を予測して出してて、何のオペか聞いただけで順番に並べてたんですね」


そういえば、佐々木さんは英介を好きだったんだよね。

だから、佐々木さんから言われたことはちょっと安心していた。


「オペがスムーズに行くように、サポートするのもオペ看の役目だって私は思ってる。特に器械出しに迷いは許されない。たくさん場数を踏んで、立派なオペ看になって。佐々木さんならなれるから」


ありがとうございます、と頭を下げた佐々木さんの肩に手を置くと、頭を上げて。

完敗です、と笑ってくれた。

付き合ってるんですよね?と。


英介には昨日、今日の事を聞かれても隠さなくていいって。

付き合ってるって堂々と言って構わないって言われたからー……、付き合ってるよ。


「やっぱり。幼なじみから恋人になれるなんて……素敵です。私は見守ることにします。色々と言う看護師も居ると思いますが、私は味方ですから嫌みを言われたら言って下さいね!」


ありがとう、と言った時、他の看護師さんも集まって来て。

昨日の事を突っ込まれたり、お似合いだとか、散々からかわれた。

そして、手術室看護師のみんなで主任を守りますね。


ありがとう、みんな。


それからは仕事をしながら、過去の私のオペ看としての数々の失敗談と、罵倒された話で盛り上がってしまった。


英介と私が付き合ってる話は、あっという間に病院中に広まった。

多少の嫌みは言われるけれど、言いたい人には言わせておけばいい。

危害さえなければ、英介の逆鱗にも触れずに誰も傷付かないし。

平穏なら、バタバタしていてもそれで私は幸せ。

だけど………平穏な日々から数ヶ月後。

季節は、蒸し暑い梅雨がやって来る頃に、私の身体に異変が起きていた。
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