ふたつの愛し方
ノックをするとーー…穏やかな声に、どうぞ、と促されて中に入ると……ー、

こっちおいで、と椅子に座ったまま手招きされて、英介の方に行くと……

どうだった?と、珍しく不安そうな声で訊かれた。


それだけ、心配してくれてるってことだよね。

昨日は冷静に振る舞おうとしていたくせに……


「卵巣腫瘍だったけれど、良性で大きさは5㎝。切ったほうがいい?」


そう伝えると、顔は一瞬で安堵に満ちて、癌じゃなくてよかった、と椅子を立ち上がって私の方へ歩み寄ると、強く抱き締めて頭をそっと撫でてくれた。


「朱希はどうしたい?」


「腹腔鏡で切れるうちに切りたい」


「わかった。シフトを調整しといて。なるべく早く切ろう」


うん、ありがとうって言ったけれど……

英介が切るんだよね?と訊いてみると、当たり前だろ。

朱希の身体にメスを入れていいのは俺だけだ、と。


やっぱりね。

独占欲の塊だから他の医者に、女医さんだとしても触れられることすら、嫌なんだよ。


こうして2週間後に、腹腔鏡下手術で腫瘍を切ることになった。


そして、切り取られた腫瘍の病理検査を美和がしてくれて、やはり良性だった。

英介も、俊也も美和も、良かったと言ってくれて。

大丈夫って言ったにも関わらず、飛んで来た母も涙を流して、良かったわ。

何の問題もなく3日で病室から離れたけれど……

その間ーー…英介は毎日、病室に来て事務作業は私の病室でしていて、隣にベッドを持ち込んで寝ていた。

院長室ですればいいのにって…

せめて仮眠室で寝ればいいのにって言ってみたけれど……

俺が傍に居たいんだよって返されたら、嬉しくて何も言えないよ。


本当ならば、直ぐにでも仕事復帰したかったけれど……英介に許されず、病室を離れた日から3日後の診察が終わった翌日にーー漸く、英介の許可が下りた。
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