ふたつの愛し方
《英介》


俺が朱希に対する独占欲は、自分でも驚くくらい計り知れない。

血の一滴すら惜しくて、あの時は苦渋の決断で……

卵巣腫瘍を切る時さえ、他の医者には指一本触れさせたくなかった。


本来持っていたものかもしれない、独占欲なんてものを今まで知らなかった。

当然だよな。

独占したいなんて思ったことすらなかったんだから。

どんな女に対しても、自分からなんて一度も告白したことすらなく。

告白されてタイプだなと思えば付き合って、義務行為のように抱いて、欲を満たせれば良かった。

それが……どうした?

朱希を好きになればなる程、強くなる。



「朱希……呑むの止めないか?」


「止めたら妊娠するかもしれないよ?いいの?」


「朱希に、子供ほしい?って訊かれた時な……迷いなく、欲しいって思ったんだ」


欲しいか欲しくないかと、訊かれれば欲しい、と。

出産して落ち着くまでは、オペ看は続けられない、と。

だからオペ看として、あともう少しだけ……私だけの特等席に立ちたい。


それに………


「まだ……英介と二人の思い出を増やしたいの」


そうだよな。

二人の思い出は、余りに少なすぎる。

医者と看護師である以上、仕方ないことなんだろうけど……

せめて、少しでも多く思い出は増やしたいよな。



朱希が特等席と言ってくれた場所にも、望む限り立たせてやりたい。

オペ看として戻って来るまで、時間はかかるだろうから。


「ああ……増やそう。そして、朱希がいつか欲しいって思えた時でいい」


「うん、ありがとう。その時は……プロポーズしてよ?」


俺のことだから、気の利いたプロポーズはしないんだろうけど……

その時には……ちゃんとするよ、と答えておこう。




さっそく、院長の権限を使って4日くらい休みを取るかな。朱希も一緒に。

どうして?

どうしてって……決まってるだろう。
朱希の一番行きたい所へ行くために。

覚えてるの?

覚えてるよ。
ディズニー・シーだろ?

うん!でも……いいの?

いいよ。俊也に任せてればな。
田中も五十嵐も居るからな、何とかなるだろ。

そうだね。楽しみにしてる。


朱希のふわっとした癒される笑顔で言われたら……するか?


「……今は……まだ呑んでもいいよね?」


「いいよ。朱希が呑むの止めた時が、その時だって…思うよ」
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