ふたつの愛し方
全ての処置が終わり、救命のロビーも落ち着いてー…ー満月が南の空にに浮かんでいて、、、

中2階のテラスで、疲れたなぁ……と呟いた英介を照らしている。


疲れたね、と呟くように返すと。


「久々だろ?救命でのオペ。何時になく興奮してるように見えた」


「うん、久しぶりに血が騒いだ。英介もでしょ?」


そう、英介からは何時になく外科医としての熱気が伝わってきて、胸の中の別の心臓が羽ばたくようだった。


「ああ、めちゃくちゃな。それと朱希を、もっと大きく羽ばたかせてやりたい。その腕をこんな病院で燻らせて置くのは、勿体ないと思った」


どういうこと?

私に、この病院から離れて、英介から離れて、別の病院もしくは医療現場へ行けってこと?

そんなの、そんなの…………


「嫌だよ!英介とは別の場所で、看護師をするなんて!」


「最後まで聴けよ!俺は、朱希を手放す気はない。朱希が独りで別の病院、医療現場へ行くって言っても許さない」


看護師の朱希も、病院から一歩出た看護師じゃない朱希も俺のだ。


強く掻き抱いて、英介は一つに束ねたままだった私の髪をほどいて、緩やかにかけられた毛先のパーマを梳かすように撫でながら、額にキスをくれた。


「離れる気はないから。英介に行って来いって言われても、突き放されても。行く時は一緒にじゃないと嫌!」


「わかってる。いつか行きたいと思ってた。医者の少ない、医療の進歩が乏しい国に」



はじめて聴かされた英介の大望。

話してくれたってことは、手放さないって言ってくれたってことは、私に着いて来いってことだよね?



「だけど……色々あって開業も考えてたし、院長になるって決断した時に諦めた。病院を守る義務と責任を背負ったしな。でも、さっき救命でオペを久々にして、行きたい気持ちがまた再燃して迷ってる」



迷ってるなら、行こうなんて簡単に私には言えない。

英介が自ら言ったように、英介の背中には守るべき大きなものがある。


それなら…ー…、


「行かなくても今よりも、もっと英介の隣で看護師として羽ばたける。英介が決断したことなら、私は何処へだって着いて行く!」



私に言える、安心して迷って決断してくれる最良と思える言葉をーー英介へ。



「……ありがとう。ゆっくり考えて決めるよ」


うん!と、腕の中で頷くと、寒くなってきたな、と。

医局に寄って帰ろう。
< 99 / 133 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop