燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~
次の日の朝。私は起きた時間が『ある』約束の時間の20分前であることに気づいてバタバタと準備をする。
あぁもう着替えも面倒。
ワンピースだと一枚で便利だ。化粧も軽くして、髪は一つに束ねる。用意はすぐにできたが、もう約束の5分前になっていた。
「おはよう! 朝食いらない!」
走って玄関まで行き、靴を履きながら母に言う。
母は呆れた様子で玄関ホールまで出てきた。
「ちょっと、朝からバタバタして」
「今日はロマナンさんが引っ越しの手続きに付き合ってほしいって」
「最近多いわね。気を付けていくのよ」
「はぁい」
私は返事をすると家を飛び出した。
ロマナンさんは、以前、うちに救急搬送されてきた患者さんだ。英語が話せないので、コミュニケーションがうまくいかず、私が間に入った。
私はこう見えて、六か国語を話せるのだ。簡単な日常会話ならそれ以上いける。
外国籍の方が多いうちの病院ならではのことで、私は自分のこの知識が役に立っていることがいつも嬉しく思っていた。
そういうことをしていれば、ロマナンさんに限らず、外国籍の方と仲良くなることは往々にしてあり、私は彼らがなにか生活の手続きなどで困ったときには付き合うことにしている。