燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~

 私は慌てて、
「よぶ! 呼ぶから!」
と叫んだ。

 その叫び声が思った以上に大きくて、先生はそれを聞いて楽しそうに笑う。

「うん」
「えっと」
「まさか知らないとか、ないよね」
「知ってる」


 そうだ。名前くらい。
 3か月間の私は呼び捨てで呼んでた。

 でも、私は……。

「拓海……さん」

 これが精いっぱいだ。


 先生は苦笑して、

「呼び捨てでいいよ」
と言う。

「できないですよ。だって、先生はずっと先生だったし」

 私は先生のこと、昔から……医師としてすごいって思ってた。
 そんな先生のこと、なかなか呼び捨てにはできない。

 私がそう思ってまっすぐ先生を見ると、先生はふっと微笑んで、私の頬を撫でる。


「……そっか。そうだよね。……わかった。もう一回読んで」
「拓海さん」


 私が呼ぶと、先生は嬉しそうに笑う。


 あ、今、また一つ。

―――先生とつながった気がした。


「ありがとう、つばめ。好きだよ」
「……私も好きです」


 まっすぐそんなことを言うのは恥ずかしいけど、でも、先生には自分の気持ちに嘘をつかずに伝えたいと思っていた。

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