燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~
「明日から有給?」
気付くと、隣に一条が来て言った。一条も今日は夜勤で、一緒に救急に入っていた。
専門科が違っても、名コンビと言われるのは、彼女のもつ冷静な目のおかげだと思う。
「あぁ、頼んだよ」
「うん、それはいいけど。……結局、3か月間のつばめちゃんの記憶は戻らず、か」
「あぁ」
そう言って、また自宅の窓を眺める。
すると、横に並んでいた一条はまっすぐこちらを向いて口を開いた。
「私はあんたみたいに後先考えないで突っ走るタイプ、本当に嫌いなの。でもつばめちゃんがいいならっていいって思ってた。つばめちゃんは、私にとっても家族みたいに大切な女の子だから。もし、また、傷つけるようなことがあったら、許さない。あんたがどう言おうと、離婚させて、引き離すから」
それは迷いのない言葉だった。「だからもう二度と、あんなことしないで」
あの3か月間、ほとんどつばめとの接触はなかったはずだが、勘のいい彼女のことだ。何か感じることが多かったのかもしれない。
「……一条が言うと怖いな」
「当たり前でしょう」
「肝に据えておく」
そう言うと、空き缶をゴミ箱に捨て屋上を後にした。
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