燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~
「それよりつばめ」
「はい?」
「また『先生』って言ってるけど?」
「あ……」
最近、このやりとりが多い。
でも、長年培ってきた呼び方は簡単には変わらなかった。
「いつまでも慣れないね。そろそろペナルティでもつけようか」
先生は言う。「呼び間違えるたびにつばめは僕のお願いを聞くっていうことにしよう」
そう言われて私の頭によぎったのは、キスだとか、ハグだとか、そういう事。
だって、先生って、隙あらばそういう事するし、私があんまりずっとだと嫌がるのを知っていたから。
「……別にいいですけど。変なことはダメですからね」
「変なことって?」
先生はきょとんと訊き返してくる。その問いに、顔が赤くなるのが分かった。
「いや……あの」
「あ、つばめもしかして、やらしい想像した?」
「し、してません! 先生がそう言う風に持っていったんでしょ!」
「「あ」」
二人の声が被った。
(私また、『先生』って言いましたねーーーーー⁉)
青くなっている私の隣で先生は楽しそうに笑う。
「はい、早速ペナルティ1つだね。あとで楽しみにしてて」
「うう」
なんでしょう。買い物に行けとか? しもべみたいに仕えろとか?
なんとなく先生はそういうこと言わない気もする。いつも優しい先生がそういう事言うの、似合わないなぁと思って、なんだこれは、のろけじゃないか、と独り言ちる。