燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~
「ちなみに、僕はそういう想像したよ」
先生は言った。
「え……あの……」
先生がまっすぐ前を向いて運転している。からかっているのでもなく、まっすぐな目でそう言って。
私は膝に乗せた自分の手をワンピースのスカートごと、ぎゅうと握る。
「ほんとは、わ、私もちょっと想像してしまいました」
「あはは、素直だね」
先生は笑って、二人ともなんだかおかしくて笑ってしまった。
ちなみに私は、実は『そういうこと』をほとんど知らない。
そんなことは本やドラマや映画の出来事で、なんなら、実際に詳しくはよくわかってないのだ。
漫画やドラマで見る二人は、そういう事になった後、すごく幸せそうに抱き合って朝を迎えていることが多い。
それを思い出すと、それが私たち二人で安易に想像できてしまっていた。
これって何なんだろうって思う。
先生となら、あんな幸せなドラマみたいな夜を過ごせる。先生もきっと慣れてるし、大丈夫だ。きっと先生はいつも通り、いや、いつも以上に優しい。
その時は、そう思っていた。