燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~
「ずっと揺れてた。記憶が戻らないなら、僕との関係を全部積み上げなおして、つばめの最初の記憶を塗り替えたかった気持ちもあったし……」
先生は続ける。「でも、つばめがこの旅館に来たいって言いだした時、やっぱりこういうことはいつまでも秘密にしておけないんだろうってわかった。この部屋でつばめの様子見てても、そうだって確信した。だから……」
先生は辛そうに目線を下げる。
「どうして無理矢理なんて……」
「前にも言わなかったっけ。一度触れたら我慢できないって思ってたって」
「……」
「だから触れないようにしてた。大事にしてた。つばめは最初ここに来た時、怖気づいて泣いた。そりゃそうだよね。今考えれば、『あのときの』つばめは、そういうことを今のつばめ以上に何も知らなくて、怖かったと思うから」
あのときの私? それは3か月間の、私だ。
その私が、今の私以上に何も知らないってどういう事なんだろう……。
「でも、結局つばめの信頼を壊したのは僕だ。一度触れたら止まらなくなって、傷つけた」