燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~
「帰って出かける用意して待ってて。どっちみちもうすぐ交代だ。そしたら帰るから」
「えぇ」
「一人で帰れる?」
「帰れない」
徒歩5分の我が家は、ここから見える。
でも、一人で帰りたくなかった。
「つばめ~」
本当に困ったときの声で拓海は言う。
困ってるのわかってる。きっと『前のあたし』はもっと聞き分けが良かったんでしょう。
病院のこと、第一に考えてたって聞いた。
でもね、今のあたしは拓海が一番なの。
だけど、そうは言っても拓海はこういうとき、あたしのわがままなんて聞いてくれないことも分かってる。だからね……。
「キスしてくれたら帰る」
「ここで?」
あ、また困った顔した。