燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~

「ふーんだ。ケーチ!」
「ケチって……」

 あたしは踵を返して、職員出入り口に向かう。
 顔なじみになった新しい警備員さんに『冷たい夫』の文句言って帰ってやる、と意気込んだところで、

「つばめ」
「なにっ」

 呼ばれて振り返ると、ちゅ、と軽いキスを頬にされた。
 あたしが驚いて拓海を見ると、拓海はいたずらが成功した子どものような顔で笑っている。


「じゃ、気をつけて帰ってくださいよ? 奥さん」
「うん! 今日のデート楽しみにしてる」


 あーあ。頬にキス一つでご機嫌取るとか、拓海はずるい!

 あたしはそう思いながらも、スキップして帰路についた。


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