燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~


 拓海は少し買い物に出てくるね、と言って、行ってしまった。
 あたしと工藤先生だけ残されて気まずくなるかと思っていたら、工藤先生はまた人懐こそうな笑みを浮かべる。

「大丈夫だよ? 僕と天馬とはね、同期なんだ」
「そうなんだ」

 あたしは続ける。「で、拓海の秘密って?」

「それより前に少しだけ教えてほしいんだ。記憶のこと」
「記憶? そう言ってもあたしはほとんど何も覚えてないけど」

 あたしが言うと、工藤先生は座ろうか、とソファにあたしを座らせた。
 そして自分はあたしの斜め向かいに座ると口を開いた。




「今覚えていることは、中学3年生のことまで?」
「でもすっごく断片的で、特に中学はほとんど覚えてないの。小さい時のことのほうが良く覚えてる感じで……幼稚園の時遊んでただいすけくんとか、虫をたくさん捕まえてお母さんに怒られたこととかは鮮明に覚えてる」

「……そっか。他には?」
「拓海と初めて会った日のこと。あたしは小学2年生で。でもね、拓海も、大きくなったあたしも全然覚えてなかったんだって。変なの」
「そう」

「工藤先生、これってどういう事なの? 拓海が言うみたいに、あたしは記憶喪失なの?」

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