燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~

 あたしが言うと、工藤先生は少し悩んで首を縦に振った。

「記憶がないのは確かだよね。だってつばめさんは本当に今25歳なんだ。それは確実。はっきりとわからないけど、君はつばめさんが『忘れている記憶』を持っているんじゃないかな」
「……」
「普通、『人の記憶』って言うのは忘れていると思っていても、脳の引き出しの中に入っていてね、なにかの拍子に飛び出してきたりする。今回は、それだけを持った『つばめさん』がいるって考えるのが適当かな、と思う」

「……じゃ、あたしは『つばめちゃん』?」
「うん、同時に、『つばめちゃん』もキミだ」
「そっかぁ……」


 あたしはなんだかうれしくなった。

 拓海と一緒にいて思ってたんだけど、拓海は25歳の『つばめちゃん』のことが好き。
 あたしはつばめちゃんじゃないから、そんな拓海の相手にはなれない。

 だからこれが夢なら早く覚めて、拓海の相手になれる『つばめちゃん』にあたしも成長しようって思ってたの。


 でも、あたしが『つばめちゃん』なら、拓海もあたしを好きになるってことでしょう?

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