燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~


 あたしがそんなことを考えていると、工藤先生は

「困ってることは、ない?」
とあたしに聞いた。

「ない。拓海、優しいし。ハウスキーパーの曽根さんも優しいし」
「そう、よかった」

 話していると、すっかりあたしは工藤先生に懐いてしまった。
 工藤先生って何か話しやすい。拓海の同期だからかな?



「あたしは……これまでの記憶を取り戻すことはあるのかな?」
「それはわからない。でも、今はとにかく、つばめさんが心地いいと思う場所で、思うように過ごすのが一番だと思う」
「そう」

 心地いいと思う場所。

「ご実家は?」
「一度両親に会ったけど、なんだか、前とちがって……」
「そう」

 それはもう実家ではなかった。
 両親とも雰囲気が違ったからかな。それがちょっと……怖かった。

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