燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~
13章:過去と旅行と初めての夜(B side)
夜、新しく来たテーブルで拓海が眼鏡をかけて難しそうな本を読んでいるのを、あたしは向かいの席に座ってじっと見ていた。
「あたし、拓海が眼鏡かけてるところ嫌い」
あたしが思わず言うと、拓海はやっと顔を上げる。
「え?」
「だって、いつもあたしじゃないもの見てるときに眼鏡かけるんだもん。仕事の書類とか本とか見る時」
拓海が眼鏡をかけてるときは、あたしなんて見てないときだ。
あたしではなく、本の中や本を通した先にいる患者さんを見てる。話してる。
あたしからしたら浮気してるも同然だ。
あたしが膨れると拓海は苦笑した。
ちょっと、何笑ってんのよ。あたしにしたら大問題なんだけど?