燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~

 そのとき、ちょうど拓海のスマホがなって、たぶん、急患だと思ったら、やっぱりそうで、拓海は、

「ちょっと行ってくるね。そのまま夜勤になると思う」

 すぐに準備をすると玄関まで速足で行く。
 工藤先生はそのまま頷き、あたしは拓海を玄関まで見送りに行った。

「行ってらっしゃーい」
「うん」

 拓海は、ちゅ、とあたしの額に唇をおとすと、あたしの髪をぐしゃぐしゃと撫でる。

「知らない人が来ても」
「鍵は開けません」
「いい子」

 名残押しそうに拓海の手が離れ、あたしもその手を名残惜しく見ちゃう。
 拓海の背中を見送った。

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