燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~
「どのみち……彼女自身が『知りたい』って思えば、そのままではいられない。その日も近い気がするんだ。そのとき、また二人とも苦しむと思う。とくにつばめさんは、また3か月の記憶をなくして、それより前の、大人の記憶が戻ると思うから」
私は自分の手を握り締める。
「……ねぇ、工藤先生」
「ん?」
「私、次こそ、なにか二人の力になれるかな」
私が言うと、工藤先生はきょとんとした顔で私を見る。
「え? もう十分力になってると思うけど?」
「……そう?」
「うん。それに、記憶が大人の彼女に戻れば……今以上に一条先生の存在が必要になると思うよ」
当たり前にそんなことを言う工藤先生は、
いつだって、たった一言でこっちの深く沈んだ気持ちを浮上させる。
これだから『心療内科のエキスパート』なんて言われんのよ。
うらやましいな、ちくしょう。
「工藤先生って……ずるい」
「えぇっ。なにそれ」
「でも、ありがとう」
私が笑うと、工藤先生は苦笑した。