燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~

 そして、工藤先生はすっと顔を上げると、私の後ろを見る。
 そこは、医局のドアで。

「天馬、聞いてた?」
「……」

 すっとドアが開く。
 そこには天馬が立っていた。


 天馬は、いつから聞いてたの?


 工藤先生は分かっていたかのように、天馬に言う。

「彼女の記憶を書き換えたいのはわかるけど、それも含め、『つばめさん』という一人の人間なんだ。都合のいい記憶だけなしに、なんて無理な話だからね。だから守りたいだけじゃだめだよ。それも含めて、どう向き合っていくのか考えていかないと」

 天馬は黙り込む。

「多分そのあたりは、直感的に、今の彼女の方が感じてると思うけど」
「……どういう意味だよ」
「さぁね。僕はね、性格が悪いんだ。答えなんて教えないよ。自分で考えて向き合わないと。『犯人』の方じゃなくてさ、『彼女』と」

 そう言われた瞬間、天馬が顔をゆがめた。
 私の心臓はどきりと音を立てる。

 不思議と思い出したのは、天馬がみんなに内緒で何かを探っていたこと。
 つばめちゃんを含めほとんどの人が気づいていないだろうが、私はわかった。

 工藤先生も気づいていたのだろうか。
 でも私と工藤先生が違ったのは、私は彼のその気持ちが理解できてしまって見て見ないふりをし、工藤先生はそれにノーを突き付けたことだ。


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