燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~
正直、5分は持たない。そう思った。
脳挫傷がひどくて、私はすぐ男性の処置に入る。しかし天馬は動かなかった。
「天馬! ルートもう一本! 右の瞳孔拡大してきてる! 早く!」
「なんで」
「しっかりしなさい!」
思わず天馬をグーで殴っていた。「私もあなたも医者。しかも救急!どんな奴でも助ける」
「でも」
「天馬、つばめちゃんの守りたかった三次救急をしないつもり⁉ この病院は地域でここだけの三次救急。外国籍の人だって、誰だって分け隔てなく受け入れられるように、そうなった」
私が言うと、天馬はひるむ。
きっと許したと思ってたって、本人を目の前にしたらそうも言えなくなったのだろう。
分かる。
わかるけど、それは今、『東雲総合病院の救急医』には関係ない。
「心拍55です!」
看護師の声が響く。私は瞳孔を確認した。
「対光反射みられない。天馬!」
天馬は男性に歩み寄り、頭部を確認すると、
「右血腫増大。……頭、開こう」
とつぶやいた。
「できるのね?」
「……あぁ」
「じゃ、行くわよ。天馬」
ストレッチャーでそのまま手術室へ。
そんな私たちを大熊さんはじっと見ていた。
私は部屋から出る前、大熊さんのもとに走り、
「大熊さん。それ、アキレス腱切れてる。整形に連絡しとくから行ってください」
と言うと、大熊さんは驚いたように私を見て、頷いた。