燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~
18章:心地よくて、もどかしい日々(天馬 side)
「天馬先生。今はね、壁ドンは古いらしいですよ。顎クイや肩ズンとかが今どきの若い子はグッとくるらしいです。ナニソレ、と思って、それで娘にかりて一緒に少女漫画読んでみたら、私がちょっとハマっちゃって。先生とりあえずこれ読んでみてください。キュンと来るところには付箋をつけておきました!」
診察室で、目の前に座った患者の鈴木さんが興奮気味に言う。
確かに、その漫画……『運命の恋』とやらには、付箋が大量につけられていた。
漫画に付箋って……と思いながらも、その熱意だけは何となく伝わってくる。
この患者さんだけに限らず、なぜかこの手のものを押し付けられることは多かった。
医者と患者の関係でいただき物もどうだろうと最初は断っていたのだが、東雲院長が『患者さんの気が済むならそれくらい受け取ったら?』というようなアバウトな人だったので、なんとなく断り切れない患者さんからは、お金以外のこれくらいのものは受け取るようになっていた。