燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~
医局に戻ると、
「なに、天馬。また漫画渡されたの。それにあの生ものなに」
と工藤が声をかけてきた。
医局の隅には、たらいに入れられたすっぽんが一匹。それはだれしも不思議に思うだろうが、工藤は一発で僕のものだと分かったらしい。
工藤とは大学時代からの同期だが、昔からこういうところがある。
医師としても信頼しているが、なんとなく油断ならないやつだ。
「すっぽん。少し前に手術した高野さんが持ってきた……」
「すっぽんって! しかも生きてるし」
楽しそうに工藤は笑う。
「循環器の森本先生が、欲しがってたからあげることにした」
「あの先生なら欲しがりそうだな」
「もう断るのも面倒になるほど、みんな色々持ってくるんだけど……」
僕は一つため息をついた。「本の類は、外科の看護師が休憩時間に読んでるからそのままにしてるけど、本当に一体何なんだろう」
少し前まではこの手のものは、ほとんどなかった。
不思議で仕方ない。