燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~
僕はそれを思い出し、頭を抱える。
「そもそも僕は、あんなタイプは初めてで、どうしていいのかわかんないんだよ……。彼女といると、自分だけが変態に思えてくる」
その最初のデートの最中だって、綺麗な色の飲み物を飲む彼女を見て、自分だけが不埒なことを考えていたように思う。
これまで、女性と身体だけの付き合いならしたことがある。しかし、自分から好きになり、きちんと交際したのははじめてだった。正直どうしたらいいのか全く分からない。
「あははは!」
工藤はお腹を抱えて笑っていた。
「心療内科のエキスパートだろ。いいアドバイスとかないの」
「とりあえず、これ読んでみれば?」
工藤は笑いながら、僕の机の横に置かれた『運命の恋』という漫画を指さした。
先ほど渡された付箋だらけの漫画だ。
「工藤、面白がってないか」
「それ、僕だけじゃないけどね」
意味が分からない。
ふう、とため息をもう一度ついて、ぱらぱらと漫画をめくっていった。
「どう?」
「正直、どんな外科手術より難しそうだ。やっぱり『運命』って大事なのか?」
真剣にそう言ったのに、工藤はおかしそうにずっと笑っていた。