燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~

 僕はそれを思い出し、頭を抱える。

「そもそも僕は、あんなタイプは初めてで、どうしていいのかわかんないんだよ……。彼女といると、自分だけが変態に思えてくる」


 その最初のデートの最中だって、綺麗な色の飲み物を飲む彼女を見て、自分だけが不埒なことを考えていたように思う。

 これまで、女性と身体だけの付き合いならしたことがある。しかし、自分から好きになり、きちんと交際したのははじめてだった。正直どうしたらいいのか全く分からない。


「あははは!」
 工藤はお腹を抱えて笑っていた。

「心療内科のエキスパートだろ。いいアドバイスとかないの」
「とりあえず、これ読んでみれば?」

 工藤は笑いながら、僕の机の横に置かれた『運命の恋』という漫画を指さした。
 先ほど渡された付箋だらけの漫画だ。

「工藤、面白がってないか」
「それ、僕だけじゃないけどね」

 意味が分からない。
 ふう、とため息をもう一度ついて、ぱらぱらと漫画をめくっていった。

「どう?」
「正直、どんな外科手術より難しそうだ。やっぱり『運命』って大事なのか?」

 真剣にそう言ったのに、工藤はおかしそうにずっと笑っていた。

< 257 / 350 >

この作品をシェア

pagetop