燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~

 正直、その日のことは、よく覚えてない。

 つばめちゃんは焦点が合わないような目で、呆然としていたし、
 そんな見たこともない彼女の様子を見て、自分は怒りを抑えることができずに、犯人かもしれない男にとびかかった。

 それを止めたのは、刑事で、自分の学生時代の先輩でもあった大熊さん。

「その手、大事なんだろ。このままここで俺に暴力ふるったら一日留置所。それもいいかもしれないがな。頭を冷やすのには。……でもそしたら、今、彼女の近くにはいられなくなるぞ」
「……」
「それに、彼は参考人程度だ。俺の勘では、彼は違う」

 大熊さんのその言葉に頭が冷えたのを感じた。

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