燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~


 夜勤明け、いつものように屋上にいた。
 ここに来るのはルーティンになっている。

 以前は休憩だったが、最近はずっと犯人を探している。

 彼女と顔見知りであれば、犯人がまた近づいてくるかもしれない。
 そんな気がしたんだ。



 救急搬送口、夜間入り口、ここからちょうど全部見える。
 道行く人にも目を凝らす。

 そんなことをしていると、
 いつのまにか隣に一条が立っていた。


「つばめちゃんの様子、どう?」
「……」
「……あんたさ。顔、怖いよ」

 一条の声が冷える。「犯人見つけてどうするつもり?」


 一条は知っていた。
 それも勘づいていたが、彼女は僕に何も言ってこなかった。


「一条には関係ない」
「そりゃ私だって……医者がこんなこと言っちゃいけないってわかってるけど、そんな奴死ねばいいって思ってたよ」

 一条の目が僕を捉える。
 彼女の目は、幼馴染のそれだった。


 そうだよね。僕らは小さなころからずっと一緒だった。
 考え方だって似てる。

 僕は一条ならそう言うと思ったんだ。



 でも、一条はぎゅっと唇を噛むと、

「実際つばめちゃん自身はその記憶を思い出して、犯人のこと恨んでた? あのなんでも思ってること言っちゃう子は、犯人に対して何か言ってたの?」

 震えそうな声で、そう聞いてきた。
 僕はその内容に、言葉に詰まる。



「それは……なにも言ってないけど」

 彼女は事件を思い出した。
 泣いて震えて、辛そうで、正直、見てられなかった。


 だから、僕はより犯人探しに傾倒した。

 でも彼女は……恨み言の類を誰にも漏らしてなかった。


―――犯人を恨んでいたのは、一体誰だ?



「天馬は恋愛となるとバカだけど、つばめちゃんにまっすぐだったでしょ。前のあんたの方が今よりよっぽどよかったよ」


 一条が言う。
 思わず一条に目を向けると、一条はまっすぐ僕の目を見ていた。

 目を覚ませ。
 そんな風に、言われている気がした。


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