燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~
僕は今まで彼女の苦しさを
彼女が見ないようにすることに必死で
結局、彼女一人だけに向き合わせてきていたのか……。
何でそんなことをしたのかと言うと、僕は心の奥ではわかっていたからだ。
僕だって、彼女をいつだってそういう目で見ていた。
自分だって、不埒で、
同じような人間だと思い知らされたようで……。
犯人のことを責めることで、
自分はそうではないと思いたかったんだ。
そのことに気づいて、思わず深い息を吐いていた。
「僕が悔しかったのは……僕の中にも少なからずそう言う感情があったってことだ。つばめを無理やり自分のものにすれば、つばめを独り占めできるんじゃないかって。何度も、何度も想像したことがあったから」
思わず苦笑した。
僕は、心底ダメな人間だよね。
そう思ってそう言ったのに、彼女はそれを聞いて楽しそうに笑った。
「拓海もそういうこと考えてたんだね」
「言ったでしょう。カフェで僕の前でいつもかわいい飲み物飲んでるつばめちゃん見て、いろんなとこ見て……僕ばかり意識して、もう変態かって思ってたって」
「ふふ」
その後、つばめは震える手で、僕の浴衣の帯をほどく。
「あたし、あたしのはじめての記憶が今日のことにする。そしたらもし、つばめちゃんが何か思い出しても大丈夫だから」
自分の胸元に触れた彼女の手は緊張で震えてて。
なのに、まっすぐに僕を見る。
「『つばめちゃん』のためでも、拓海はできない?」
「それって僕にとっても酷な話だよね」
「そうだね」
分かってる。
僕が向き合うのは、つばめで、僕自身だ。
僕に逃げるな、とつばめが言っている気がした。