燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~
そんな穏やかな日々は突然崩れた。
その日の救急はずっと混乱していた。
やっとひと段落したころには、もうすっかり日は落ちていた。
その時、救急車で運び込まれたのは脳挫傷を負った、外国籍の大柄の男。
僕はその男を見て気づいてしまう。それが彼女のスマホから絞った消息不明の3人のうちの1人だったことに。
その男と一緒に、つばめと大熊さんが一緒にやってきて、
僕は事態が呑み込めずに、ただ、目の前の男が犯人だったのだろうと直感的に思っていた。
「天馬! しっかりしなさい! つばめちゃんは大丈夫。擦り傷だけ!」
一条の声が遠くから聞こえた気がした。
思わず、そこにいた大熊さんを見つめる。
彼ならすべてを知っているだろう。
僕は息をのむ。
「こいつは、犯人か?」
「……彼が、彼女を助けようとした」
否定も肯定もせず、大熊さんは静かに告げる。
なんで? 犯人がつばめを?
頭が真っ白になった気がした。
その瞬間、一条の声が飛ぶ。
「天馬! ルートもう一本! 右の瞳孔拡大してきてる! 早く!」
「なんで」
「しっかりしなさい!」
次の瞬間、頬に痛みが走り、頬を殴られたことに気づいた。
一条を見ると、一条は本当に悔しそうに唇を噛んで、僕を睨んでいた。
「あたしもあなたも医者。しかも救急!どんな奴でも助ける」
「でも」
「天馬、つばめちゃんの守りたかった三次救急をしないつもり⁉ この病院は地域でここだけの三次救急。外国籍の人だって、誰だって分け隔てなく受け入れられるように、そうなった」
ここは、すべて彼女の必死に守りたかったものだ。
だからこそ、今までは誰でも迷うことなく助けてきた。他のスタッフだって全員そうだ。
「心拍55です!」
その看護師の声に意識がはっきりした。一条が瞳孔を確認して、
「対光反射みられない。天馬!」
とこちらを見る。僕は一歩ずつ歩み寄ると、頭部を触り、
「右血腫増大。……頭、開こう」
とつぶやいた。
一条が僕の肩をぐっとつかむ。
その痛みに、頭がやけにすっきりとした。
「できるのね?」
「……あぁ」
「じゃ、行くわよ。天馬」
僕は、一条と、周りのスタッフに突き動かされるように手術室に向かっていた。