燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~
男の処置が終わり、まっすぐつばめのもとに向かった。
そこには先に一条が来ていて、一条はつばめの手を握っていた。
「つばめちゃん、本当にこれでよかった?」
その問いに答える声はない。
一歩一条に近づくと、一条はこちらを振り返らないまま、
「どんな理由があっても、もう二度とあんなことしないで。救急患者を前に迷うなんてこと絶対しないで。救急は迷っている間に死んじゃうって十分わかってんでしょ」
と強い口調で言う。
「……すまん」
吹っ切れたと思っていた。
でも、犯人を目の前にすると、簡単に割り切れなかった。
数分の判断の遅れが命にかかわると分かっていたくせに。
それを一条は怒っている。
一条は、自分よりよっぽどきちんとした東雲総合病院の救急医だ。
そのときつばめの目が開いた。
「つばめ!」
思わず、つばめを強く抱きしめる。
「天馬、先生?」
と心底驚いた表情で言うつばめに、僕らは息をのんだ。
僕らはわかったんだ。
工藤が危惧していた通り、つばめの3か月間の記憶がなくなったこと。
「……つばめ」
でも、ごめん。
僕はつばめが大好きで、どんなつばめでも大好きで。
驚くつばめを、そのまま強く抱きしめた。