燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~
「あとさ、お願いがあるんだ」
僕は工藤をまっすぐ見て言う。
「ん?」
「『運命のつくりかた』、教えてくれないか?」
僕が言うと、工藤はきょとんと、僕の方を見る。
おかしなことを言い出したって顔、してるな。
自分でも、ちょっとおかしいと思う。
医者がこんなこと言うなんて。
でも……。
「……どういうこと?」
「これ」
僕は自分のスマホの中のデータを指さす。
「あ、それ」
工藤は、何かに思い当たったように、言った。「僕、聞かれたんだ。メッセージの録音のしかたを教えてほしいって。それがそうかな?」
「うん」
僕が頷くと、工藤にそのメッセージを聞かせる。
聞き終えると、工藤は少し黙り込んで考えた。
僕は息を飲んで、ゆっくり口を開く。
「できると思うか?」
「……急いだら、悪い記憶も一緒に出てくる。そうしないようにするには骨が折れるし、何年もかかるんじゃないかな。頑張っても、人によっては一生無理ってこともある。それでもいいの?」
「あぁ、もちろん」
他に選択肢なんてないよ。
そう思って彼女の手をもう一度握る。
「僕はどれだけ時間をかけても……、もし失敗したとしても、つばめの『運命の人』になりたいんだ」
はっきり言った僕を見て、工藤は心底嬉しそうに笑った。