燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~


 それはさておき、

「だって……、ここ病院だし! 呼び間違えたら嫌だし!」

 書類倉庫で、後ろから、ぎゅう、と抱きしめられたまま、私は天馬先生から逃げようと身をよじる。でもそうすればするほど、腕の力は強くなった。

「みんな分かってるよ。っていうか、呼び間違えてもみんな喜ぶだけだよ」
「どういうこと?」

 私が振り向くと、天馬先生は私の目をじっと見た。
 その熱っぽい目に、私は思わず目をそらす。



 あれからずっと変だ。
 あの夜からずっと。

 天馬先生を見るたびに、ドキドキして止まらない。
 先生に見つめられるとおかしくなりそうで、私はつい目をそらしてしまう。

 そんなとき、先生は絶対に目をそらすのを許してくれない。
 私は思わず自分の顔を手で覆った。

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