燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~

「つばめ! なんでいるの? どうして?」

 天馬先生の冷えた声が聞こえる。

「え……それはあのー、検診? かな?」

 私は目をそらしながら答える。
 そんなやりとりを見ていた患者さんたちは、楽しそうな顔でこちらを見ていた。


(なんで誰も助けてくれないのーーー!)


 天馬先生は目を細めて私を見ると、

「そんな見え透いた嘘ついて……。どうせ仕事しに来たんでしょ」

とまた、冷えきった声で言う。


「ちょっとだけです。ほら、マルコさんの件、気になったから」
「少し待ってて、一緒に帰る。夜勤だったし、午前だけピンチヒッターだったから」
「えぇ、5分の距離くらい一人で帰れますよ!」
「だめ」


 ぴしゃりとそう言われて、私は言い返せず、そのまま外科の椅子に腰を下ろす。
 するとそこにいた看護師の向井さんや、クラークの山下さんまでクスクスと笑っていた。

 ほんの少し前まではこういうのは非常に恥ずかしかったのだけど、
 最近は少しだけ慣れてきた。

 なぜかというと、私は最近一つ、やらかしてしまったのだ。

< 321 / 350 >

この作品をシェア

pagetop