燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~


 私がそんなことを考えていると、同じようにお腹の大きな一条先生がやってくる。
 実は、一条先生と私は同じ出産予定日なのだ。

「つばめちゃん、また天馬に怒られたの?」
「ほんと心配性なんです。何とか言ってやってください」

 私が言うと、一条先生は苦笑して、

「うちも似たようなものだわ」

と言った。


「一条先生、男の子ですって?」
「あぁ、うん、きっと熊みたいな顔の子が生まれるわよ」

 その言葉に思わず、大熊さんを思い出して笑う。

「つばめちゃんとこ、女の子だって?」
「はい……。もう今からおなかの中で、元気で元気で……」

 私がおなかをさすると、お腹の中からぼこ、と元気な返事があった。
 元気なのは嬉しいが、結構な力加減で、私は顔をゆがめる。



 その時、午前の診察を終えた天馬先生がやってきて、
「一条もそろそろ産休だろ。無理するな。さっさと帰れ」
と一条先生に言う。

「今日は定時で帰るわよー、彼も早いし」

 一条先生は少し頬を赤らめて、唇を尖らせるとそう言った。
 そのしぐさがまるで恋する子猫のようで、思わず笑みがこぼれた。

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