燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~
慌てたように、拓海は私にハンカチを差し出す。
「大丈夫?」
「うん。ただ、嬉しいだけで……」
「思い出したの?」
「うん。でも、なんだか違うの。あの時と」
「え?」
「なんていうか……分かれてないの。あたしは、私の中にいる」
私は息を飲んで続けた。「ちゃんと、拓海の前に、『つばめちゃん』と一緒にいる」
拓海は嬉しそうに私を抱きしめる。
消毒液の香りの混じった拓海の匂いに、私は目を閉じた。
「ずっと待ってた」
「あなたがずっと私のことを愛してくれたから、あたしはここに戻ってこれたのね」
そしてふとあることを思い出して苦笑する。「拓海、ブラック苦手なくせに、いまだに私の前でブラック飲んでたのって、ずっとドキドキしてたから?」