燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~
「やっぱり我慢できないかも」
そう小さく呟いた声は私の耳には届かなかった。
私が聞き返すと、天馬先生は、なんでもないよ、と言いながら、当たり前のように私の髪をなでると、
「さっさと退院準備して一緒に帰るよ。退院前の診察は一緒に行こう」
と言ったのだった。
「え……」
「いやなの?」
ぴくりと不機嫌そうに天馬先生の眉が動く。私はなんだか断れなくなって、
「そういうわけではないんですが」
と言ってしまう。
いや、断るなら今だった!
完全に機を逃した!
だって退院前の診察まで一緒だったら、もう逃げられないよね。
と言っても、逃げ道はどう考えてもないんだけど……。
できればあと数日入院できないものか……。
いや、だめか……。私も少しでも他に必要な患者さんに病床を使ってほしいし。
それならもういっそ野宿するしかないのか……?