燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~
部屋は、徒歩5分のかなり病院から近いマンションの15階だった。
マンションからうちの病院の救急搬送入り口が見えて驚く。
ここは、以前は天馬先生が一人で住んでいた部屋らしい。
後ろから押されるように入ってみると、殺風景な空間が広がっていた。広いリビングには、その殺風景な雰囲気に似合わない温かみのある大きな木製のテーブルが置かれている。
「どう? なにか思い出した?」
「う~ん、やっぱり思い出せないです。ごめんなさい」
「謝ることないよ」
先生の優しい声が降ってくる。
その声が鼓膜に届くと、くすぐったく感じた。
「でも、このテーブルは好き」
私はテーブルをなでる。なだらかな曲線を描くテーブルは、私にはすごく魅力的に思えた。
それを見ていた先生は笑う。
「やっぱ、つばめはつばめだね」
「え?」
「そのテーブル、つばめが一目ぼれして買ったんだ」
そう言われて、またテーブルを見つめる。好きだよ? うん、このテーブルの感じが好き。
私が選んだと言われれば納得できる。
でも、そんなこと言われたら、天馬先生との結婚生活がリアルになっちゃうじゃん。
今まではやっぱりまだ夢みたいな、ドッキリみたいな気が、まだしていたのに……。
実際そうじゃないかと、そうであれと、ずっと心の底で思っていた。
だって、それがホントだったら……。
私はいつかそれを認めなきゃならなくなる。