燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~

 部屋は、徒歩5分のかなり病院から近いマンションの15階だった。
 マンションからうちの病院の救急搬送入り口が見えて驚く。

 ここは、以前は天馬先生が一人で住んでいた部屋らしい。
 後ろから押されるように入ってみると、殺風景な空間が広がっていた。広いリビングには、その殺風景な雰囲気に似合わない温かみのある大きな木製のテーブルが置かれている。

「どう? なにか思い出した?」
「う~ん、やっぱり思い出せないです。ごめんなさい」
「謝ることないよ」

 先生の優しい声が降ってくる。
 その声が鼓膜に届くと、くすぐったく感じた。


「でも、このテーブルは好き」

 私はテーブルをなでる。なだらかな曲線を描くテーブルは、私にはすごく魅力的に思えた。
 それを見ていた先生は笑う。

「やっぱ、つばめはつばめだね」
「え?」
「そのテーブル、つばめが一目ぼれして買ったんだ」


 そう言われて、またテーブルを見つめる。好きだよ? うん、このテーブルの感じが好き。
 私が選んだと言われれば納得できる。

 でも、そんなこと言われたら、天馬先生との結婚生活がリアルになっちゃうじゃん。

 今まではやっぱりまだ夢みたいな、ドッキリみたいな気が、まだしていたのに……。
 実際そうじゃないかと、そうであれと、ずっと心の底で思っていた。

 だって、それがホントだったら……。
 私はいつかそれを認めなきゃならなくなる。

< 41 / 350 >

この作品をシェア

pagetop