燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~

 私が眉を寄せながらそんなことを考えていると、先生は優しく私を抱きしめた。

「ごめん。わかったから……。でも、記憶なくてもね、これくらいはさせてくれないかな?僕たちは夫婦なんだし」

 って、さっきから薄々感じてたけど、してから聞くよね。天馬先生って。
 やっぱり、それちょっと卑怯だと思う。


 私は、うう、とつぶやいた。けど、だめ、とも、いい、とも言えなくて黙っていると、それをいいことに天馬先生は抱きしめるのをやめてくれない。

 この状況じゃなくて、3か月前の私が、もし同じように天馬先生に抱きしめられてたらどう思ったのだろう。
 きっと拒否しなかったかもしれない、と、そんなことを考えて小さく頷いた。

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