燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~
先生がシャワーを浴びて着替えてきたとき、私も私服に着替えてリビングに行った。
すると、先生は、お医者さんの顔をして、
「傷見せて。消毒しておこう」
と言う。
「いいですよ。ただの擦り傷だし」
「だめ。はい、出して」
有無を言わさない圧力。
そういえばあの熊みたいな男の人も先生のいう事聞かされてたな、と思うと反抗できなかった。
私は、先生の言われるままにリビングのソファに座り、擦り傷の多い腕と足を出す。
肘と膝に特に傷とあざが集中していた。
先生は、私の前にひざまずいて、それをそっと消毒しながら、
「あざがいくつかできちゃってるね……治るといいんだけど」
とつぶやく。
「大丈夫ですよ、あざくらい」
「だめだって。僕にとっても大事な身体なの。だから自分でもちゃんと大事にして?」
と言う。
「……はい」
そんなこと言われたら頷くしかないじゃん。
自分がやけに天馬先生に大事にされているように思えて居心地が悪い。
先生は、私のことが好きだったんだよね。
でも、私は、先生と結婚を決めた時のこと、何も覚えてないの。
そんな私のままで先生は本当にいいのだろうか。
そんなことを思う。