燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~
すると、先生は消毒を終え、私の顔を見上げた。
「もしね。……もし、これからつばめが3か月間のこと何も思い出さなくても、また僕を好きになってほしいって思ってる」
真剣な顔に胸が大きく高鳴る。
「……それは」
「少しずつでいいからさ。僕のこと、もう少し知ってくれないかな? そして僕と夫婦になってほしい。つばめと、今のつばめとも、もう一度結婚したい」
そんなまっすぐな顔で、声で、プロポーズしないでよ。
「なによそれ。ずるい……」
自分にある先生との思い出はほとんどと言っていいほどない。
月一のカフェデート。しかも私は一条先生と天馬先生が付き合ってると思ってたし、天馬先生は病院を継ぎたいだけだと思ってたから、天馬先生のこと男の人としてなんて見たことなかった。
そんな薄い思い出しか私にはないのに。なんでそんな私にこんな風に真剣にプロポーズするの?
きっと私の忘れた3か月間に、これまでにないほど濃くて甘い思い出を積み上げたんでしょう?
だから先生はこんなに優しいんだよね?
私がそのプロポーズを受け取る理由なんて……ないんじゃないの?
なんでか泣きたい気持ちになる。
そんな私のことを、先生はまるで大事なものを抱きしめるように、そっと抱きしめた。