燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~
「……だから私もこの話をお引き受けしたんでしょう」
「だったら、さっさと入籍しなさい」
「もう少し待って」
「もう少しってどれくらいだ」
「3年くらい」
私がきっぱり言うと、父は黙った。
そのとき、その話を今まで聞いていた母が口を開く。
「ねぇ、つばめ?」
「なぁに」
「つばめはどうしてそんなに結婚したくないの」
「したくないわけではないの。もっと自分自身、外国語の勉強もしたいのもあるし……うちをもっと外国籍の人も受診しやすい病院にしたい。それに、結婚して天馬先生と結婚して一緒に暮らすだなんて実感ないだけ。正直、天馬先生って、よくわかんないし」
天馬先生のこと、嫌いってわけではない。
『天才外科医』なんて言われていて、テレビにも取り上げられた。
確かに、天馬先生の処置は素人目に見ても速くて正確で無駄がない。
県外から先生を指名してくる患者さんもどんどん増えていて、正直、『天馬先生のいる東雲総合病院』と覚えられてきている節もある。
すごいとは思う。すごいとは……。
でも、天馬先生とは接点も少ないし、そもそも何の感情もない。
デートって言ったって、本当にただ義務のようにお互いお茶を飲んでいるだけだ。