燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~
「……写真、二人で写ってる」
仲良さそうに写る私と先生。
しかも見たことのない場所。
旅館みたいで二人は浴衣姿だった。
当たり前みたいに私を後ろから抱きしめた先生がそれを撮っているように見えた。
それを見て、胸がぎゅう、と痛む。
「……変なの」
私はつぶやく。
だって、私にはそんな記憶ないのに。
本当にあったことだと、写真だけが言っているんだ。
―――まるで私の知らない私がもう一人いるみたい。
まぁ、実際そうなんだろうけど。
これは、記憶のない3か月間の、私だ。
心の中の黒いものがどんどん大きくなっていく気がする。
でもそれがどういう感情なのか、私はそれがわからないまま、ただ、暗い音で鳴り響く心臓の音を聞いていた。