燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~
「別に忙しくして帰ってこないんだから、結婚してようが、してなかろうが一緒だろうけど」
私が言うと、父が慌てたように、
「新しい医師も3名入れたんだ。天馬はずっと休みなしだからね。少しは休みもとりやすくなるように」
「って言って、いざとなったら結局天馬先生頼りじゃん」
「それもそうだが。でも、今は私もいる。だからこそ早く結婚して、私たちがフォローできるうちに子どもだって」
「子ども……」
あぁ、そうか。
当たり前だけど、結婚したら子どもができる想定なのね。天馬先生と一条先生なら、間違いなく天使が生まれるわ。どうせならその子が見たい。
そんなことをぼんやり考えていた。
すると母は、
「私は、子どもに関しては急がなくてもいいと思うけど」
と言った。「でも一緒に住むくらいしないと、お互いよくわかんないんじゃない」
と言いただしたので、私は慌てて、
「もう、この話は終わり。私は一年で12回先生とプライベートで会って、お茶して、それでいい。それだけで十分よ。それに、私も天馬先生も、婚約破棄しようなんてことは思ってないから安心して」
と言って、ごちそうさま、と席を立った。
「ちょっと待て、つばめ」
「とにかくもう少し猶予をちょうだい。天馬先生も忙しくされているし、それどころじゃないでしょう」
天馬先生の忙しさが、入籍を待たせるための免罪符のようになっていて、私はそういう意味では天馬先生が相手で良かったと思っていた。