燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~
「こんな短期間で好きになるとか……我ながら単純……」
「そもそもずっと知ってた間柄でしょう。いいじゃない! 単純って最高! びびっときたのよ! 人を好きになる時なんてそんな単純なものよ」
一条先生の弁に熱がこもる。
「もしかして一条先生も、恋してるんですか?」
「んー、気になる人は、いるわね。私には興味なさそうだけど」
「天馬先生」
「天馬じゃないわよ」
私と一条先生の声が被った。
やっぱり天馬先生ではなかったか。
あれ? 今、私、ちょっとほっとした?
「私はね、あんな男より、硬派でかっこよくて輝いてる人が好き。天馬は弟みたいな感じね」
「あ、そういえば天馬先生も姉みたいって」
「どうせ横暴な姉とか言ってたんでしょ」
「……」
言い当てられて思わず閉口する。そうです、とも言いづらい。
「昔からね、ずっと私たち、二人ともお似合いって言われてたのよ」
一条先生は続ける。
「でも、二人とも全然違うタイプが好きで。だからこそ、うまくコンビで一緒に仕事できてるんだと思ってる。私、こう見えてなんだかんだ好きな人が近くにいると、仕事に集中できない乙女なのよ」
「かわいいです、一条先生」
「そうでしょ。それが天馬は分かってない。横暴な姉って……なんなのよ。わたしはこれでも好きな人の前では子猫のようなタイプなんだから!」
「子猫」
「そう、子猫」
「シャムネコとかペルシャ猫とか……高貴な猫っぽいです」
「うふふ、ありがと」
そう言われて、私たちは顔を見合わせて笑った。