春永すぎて何が悪い?
同期の飲み会は、みんなそれぞれ近況トークから始まる。

半ば及川くんにすごいよね、すごいよねって言う会。

及川くんはずっと「いやいやいや」と謙遜している。

分かってる。

及川くんがセンスだけでトントン拍子にここまでやってきたわけじゃないこと。
誰よりも努力してるし勉強してる。

私はすぐに及川くんを褒めるのをやめた。

言えば言うほど、自分はその努力してきたのかって自分に問いかけてしまって苦しくなる。

ふと及川くんと目が合った。

「俺がすごいと思うのは」と自分への褒めトークを遮るように切り出した。

「玉手さんなんだよね。」

突然の自分の名前の登場に驚く。

「は?なんで?私?」
「1年目の頃かな、ヘルプでちょっと一緒になった時にさ、バケモンかと思った。」

及川くんが笑う。

「老若男女誰とも楽しそうに話してるし、全然来てなかった人のことまで前話したこと全部頭に入ってんの。」

そんなこと・・・。

「その能力に妬いたねー。俺、全然会話覚えられないからさ。」
「そんなこと・・・」
「必要だよ。カットだけで客はつかないよ。」

少し及川くんの目から笑みが抜ける。

「世間話してるだけで褒められたの初めてなんだけど。」

私は褒められることに慣れてない。
照れ隠しに笑う。

でも、及川くんにそう思われてたことは素直に嬉しい。
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