春永すぎて何が悪い?
そして少しの間を置いて口を開いた。

「俺は玉手さんのこと抱きたいけどね。」

冗談のようなハハッという乾いた笑い声が室内に響く。
頬杖をついて私を見る目。
及川くんが余裕のある笑みをする。

「あ、照れてる。」

私はハッとする。

「そんなんで照れないよ。」

やっと落ち着いてメニューを眺めて次飲むドリンクを決めた。

通りかかった店員さんを呼び止めて注文する。
及川くんも今飲んでるのと同じのをまた注文した。

店員さんが扉を閉めたのを確認して、及川くんが私を見る。

「俺で良ければ、寂しい時いつでも来てよ。」
「何言ってんの。」

私は笑って流そうとする。

「言ってみたかっただけだよ。ドン引きしないでよ。」

ほらね。

すぐに運ばれてきたお酒をまた飲んだ。
そして次に及川くんの口から出てきたのは、店長の話だった。

恋愛の話はもう出なかった。

24時過ぎた頃、店の前で私たちは別れた。
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