春永すぎて何が悪い?
13時半。

龍樹の店から歩いてすぐの及川くんの店に二人で向かう。

「すーごい変にされたらどうする?」

龍樹がずっとグダグダ言ってる。

「大丈夫だよ、私よりずっと上手いから。」
「えー、俺奈穂ちゃんでいいんだけど。」

そう言いながら、半地下にある綺麗なガラス張りの店舗に向かって階段を降りる。

と、中からさっきの及川くんがガラス戸を開けてくれた。

「いらっしゃいませー。」

爽やかだ。

狭いけど、開放感があってシンプルで清潔感溢れる店内。

トップスタイリストの店長と、及川くんと、アシスタントの子と、大体3人で回してる。

龍樹が真ん中の席に通される。

私は何もすることなくて、店内をブラブラする。
有給取った日に店にいるのも変な感じ。

働かなくていいのに、なんか動きたくなって雑誌2冊を龍樹のところに置く。

「仕事してんじゃん。」

龍樹が笑う。

「どんな感じとか、あります?」

及川くんが聞くと、龍樹は返答に困っている。

「なんかもう爽やかにしちゃって。見た目怖いから。」

私の声を聞くと、及川くんが「はーい。」と返事した。

そして瞬く間にバサバサ切られていく。

早くて、上手い。

私が長年切れずにいた前髪もバッサリだ。
気持ちいいくらい。
床にバサバサ髪の毛が落ちていく。

鏡の中に別人がいる。

やっぱり私だとこんな思い切って切れない。
及川くんに頼んで良かった。
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