春永すぎて何が悪い?
なんて話そう。
どんな話をしよう。

そう思ってたら、すぐに目に飛び込んできた。

背が高いからすぐ分かる。

ダメだ、緊張する。

目が合って、龍樹さんが笑う。
子どもっぽい笑顔。

胸が高鳴る。

「ごめん、待った?」

龍樹さんが言う。

「さっき来たばっかです。」

嘘をついた。
もう40分前に駅に着いてる。

ずっと時計を見ながら、何度もトイレで身だしなみをチェックしてた。
ずっと落ち着かなかった。

「俺全然分からないから、今日はりっちゃんが案内して。」

龍樹さんがヘラッと笑う。

「はーい。」

私はまず一軒目の雑貨屋さんに向かった。

龍樹さんがすぐそこを歩いてることにいちいちドキドキする。

会話がなかなか出てこない。

いつも奈穂さんとどんな話をしてるんだろう。

前、すごく自然体で話してた。
あんなにデレデレしてる龍樹さん、初めて見た。

彼女の前だとあんな表情になるんだ、ってちょっと悲しくなった。

奈穂さん、美人だった。

付き合って長いんだろうなあ。

狭い雑貨屋さんに入る。

所狭しと手作り雑貨が並ぶ。

一つの食器が目に入った。

「これとか、可愛くないですか?」

そう言うと、龍樹さんは「あーいいねえ。」と言う。

ピンと来てないのかなっていう口調。

「こういうのがいいの?」

龍樹さんの方から逆質問される。

「可愛くないですか?」
「うん、いや、俺本当疎いかも。こういうの。」

龍樹さんが苦笑いする。

「知らないのは全然決められないんだよねえ。」

甘えん坊の子どもみたいな顔。

「えー、じゃあ次の店行ってみます?」

すぐにそのお店を出て、二軒目の家具屋に向かった。
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