春永すぎて何が悪い?
歩きながら、すぐ近くの私のマンションの前に着く。
ここまでだ。

夢に見た念願のデートが終わる。

「今日はありがと。また何かあったら相談するね。」

龍樹さんは笑顔でヒラヒラと手を振って、背中を向けた。

「また何か」、ありますように。

龍樹さんが行ってしまう。
デートが終わる。

「あの」

龍樹さんが「ん?」と振り返る。

ずっと、ずっと考えてたことを言うんだ。
頑張れ。
頑張れ、私。

「昨日、カレー作ったんですけど、かなり美味しくできたんですけど、たくさん作っちゃって。食べていきませんか。」

一昨日から考え続けたセリフを言い終わる。
心臓が破裂しそう。

恐る恐る龍樹さんの目を見た。

龍樹さんは口元に手を当てて、ちょっと驚いたような、何かを考えるような表情をしている。

「あー、ありがとう。」

そんな言葉が第一声で出てきた。

「グリズリー仕込みのカレーなら間違いなく美味しそうだね。」
「辛めに作ってます。」
「間違いなく美味しいね、それは。」

ちょっと龍樹さんが微笑む。

「でも、ごめん。」
「えっ。」
「奈穂ちゃんにバレるのが、怖い。」

龍樹さんはそう言って歯を見せて笑う。
< 40 / 61 >

この作品をシェア

pagetop